拡張するバラ畑<
バルカン山脈のふもとに広がるバラ畑
蒸留所を再開するにあたり、バラの苗木を植えることからはじめなければいけません。
F氏はバラの栽培地を選ぶのに地元のお年寄り達に話しを聞きにいったそうです。昔、どこにバラが咲いていたか、それはよい土壌とよい水はけなど理想的な条件を満たした土地を探すのに大きなヒントになりました。
工場から車で10分。案内されたばら畑の隅は小高い丘になっています。
小高い丘に駆け上りそびえるバルカン山脈を背に大地を見渡したとき、ブルガリアの豊かさのすべてを掌中にできてしまいそうな感動を覚えます。見渡す限りの草原は気候の穏やかさと大地の地味の豊かさがはっきりわかります。
あるところは畑、あるところはバラ畑やラベンダー畑。
あるところは耕す人のいない荒廃した畑(共産主義から自由主義への移行の混乱で荒廃したそうです)ということです。その荒廃しているはずの畑でさえ雑草の豊かさと種類の豊富さがまた美しい。
「北方から吹き下ろす霜がこのバルカン山脈にあたり、バラを霜から守ります。この山脈の山陰数キロがよい土地です」
バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈に囲まれた谷一帯がバラの生育に適した土地としてガイドブックには書いてありますが、現実には同じ谷でもちょっとした場所の違いが品質の差となって現れます。
ブルガリアでは5月くらいから雨が多くなります。豊かな降水は微かな勾配を描く表層の砂地にしみるものの粘土層で保たれます。
水はけと保水のバランスがよく、森林の腐葉土がもたらす栄養分とともにバラに生育には理想的です。また雨の季節の曇天はバラから精油の飛散を緩和します。湿度が高く朝露ができやすい年はバラの豊作の兆しです。
「あの山の中腹に滝が見えますか?あれをこの畑の池に引きたいと考えています」
畑の横には人工の池がありそこに山の清流を引き込む計画があります。豊かな降水だけでなくさらに安定した水源供給を彼は計画していました。
この蒸留所さんでは毎年蒸留設備へ相当の投資を継続的に行っていますがそんな計画まであるとは資金が続かないのでは余計な心配をします。
隣国ルーマニアのある人がローズ栽培をやりたいというのでバラの苗木を譲ったことがあるそうです。
F氏は、ルーマニアのそんな土地では育たないだろうと忠告しましたが、予想通りそのルーマニア人はすべてのバラを枯らしてしまったといいます。
とにかく、この土地はダマスクローズにとって、ただひたすら理想的な大地、という感想をいだきます。
- (2017-08-12)